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*くろちゃんねる要素あり。
目を覚ました少年は、パチパチと数度瞬きした後、ゴシゴシと目を擦った。
見覚えのない場所。どうやら公園のようだが、近所にこのような公園などあっただろうかと少年は首を傾げた。
起きぬけだからだろうか、頭が思うように働かない。とりあえず状況を把握したくて、ぐるりと周りを見回した。
今いるのは遊具の一つのようで、何と言えばいいのだろうか……立て床式倉庫、と言えば想像して貰いやすいかも
知れない。
その倉庫の壁部分を全部剥がして、代わりに30センチほどの高さの太めの木の柵が3方にめぐらせてある。
柵のない場所―――少年から見て右側の方だ―――には、地面へと降りれるように丸太を組み合わせた階段が作られていた。
因みに左側には柵はあるのだが、上の部分から雲梯が伸びていて遊べるようになっている。少年はこの雲梯が苦手だった。
いや別に今の状況とは全く関係ないのだが。
雲梯の方へ目をやってそこから右に視界をずらしていくと、砂場、ブランコ、そして公園の入り口があった。
少年が現在座っている位置の、真向かいに入り口がある。
この公園を上から見て長方形と見た時に、横棒の左上に入り口が、左下に今少年がいるといった形だ。
後横棒の右上にも、もう一つ入り口があった。
遊具はどうやら公園の左に集中しているらしく、砂場もブランコも少年が入り口の方を見ると全て左側の視界に映った。
それにしても、と少年は後ろを向いた。
目に入ってくる遊具の柵の向こうに、緑色の高めのフェンス。その向こうは、鬱蒼とした木々が茂っていた。
昔はここ一帯全てが山だったのだろうな、と思う。
開拓していった中に、一部分だけ残った山の面影。そんな感じだった。
少年はそれを見て、キュッと眉を顰める。
少年が住んでいるのは、東京都内である。確かに山手線沿いのような超都心ではないが、そこそこ開発の進んだ地区だった。
木々がないとは言わないが、ここまで山の形を残している場所も、近くには存在しないはずなのだ。
それに少年には、ここまで来た記憶が全くなかった。
学校に行き、授業を受け、部活で汗を流し、マジバで買い食いをし、また明日と仲間達と別れ、風呂に入り、寝るまでの束の間の
時間趣味のゲームをしていた。
いつもと同じ、なんら変わりのない一日だったはずである。
「どうしてこんな……」
何故、こんなことになってしまっているのだろうか。
少年が立ちあがろうと体勢を変える際、ふと何かが尻の下にあることに気付いた。
なんだろうと尻の下を探れば、その違和感は自分のズボンのポケットの中にあるらしかった。
少年には、尻ポケットに何かを仕舞う癖はない。
何かと思い取り出してみると、それは見慣れた折り畳み式の携帯電話だった。
「?僕ポケットに携帯なんて入れてましたっけ……」
でもまぁ、ないよりはいいかとも思うけれど。
念の為に他に何か入っていないか服についてるポケットを全て調べたが、残念ながら出てくるものはなかった。
とりあえずこれがあるだけでも助かった、と少年は電話帳を開き、まずは家に連絡を入れようと電話をかけた。
急にいなくなった自分を、きっと心配しているはずだ。
だが耳にあてた通話口から聞こえてきたのは、接続音ではなく通話音のツーツーという音だった。
どうやら向こうが通話中のようだ。
少年は一旦電話を切ると、もう一度電話帳を開き、今度は友人へと連絡を入れた。
『ツーツー……』
計8人、結果は全て同じだった。
電話が通じない。電波の強度を示すアンテナが、三つとも立っているのにも関わらず、だ。
少年は背中にうすら寒いものを感じながら、今度はメールを送ることにした。
自分が無事なことと、何処か知らない公園にいる旨を打ちこんで、送信ボタンを押す。
結果は―――ほぼ予想していた通りだった。
「電話もダメ。メールも送れない。どうなってるんだ……」
茫然とひとりごちながら、ではwebページならどうだ、といつも使ってるコミュニティサイトを開く。
繋がることは繋がった。だが、全て文字化けしていて読めないどころか、呟きを打ち込んでも送信は叶わなかった。
外部との接触が全て断たれている。
俄かには信じられないが、今の状況ではそう考える他なかった。
諦め半分で今度はwebのトップページを開くと、適当に『意味不明』と打ち込み検索ボタンを押す。
すると検索ワードは送信できるようで、新たなwebページが開いた。
けれどそれも全て文字化けしていて、とても有意義な情報になりえそうもない。
解読不能な文字の羅列を見つめながらもとりあえず下へ下へとスクロールしていくと、ふと脳内に意味を成した文字が飛び込んで
きてハッと携帯を握りしめる。
理由はわからない。だがただ一つだけ、文字化けを起こさず日本語を保っているページがあった。
『ってかなんでそんなんなったのか意味不明なんだけど』
『お前それ意味不明にもほどがあるぞ』
検索に引っかかった言葉なぞどうでもいい。
大事なのは、このサイトのみがきっと、自分と誰かをを繋ぐ媒体だということだ。
少年がそのサイトを見ることは過去何度かあったが、自分が『主』と呼ばれる存在になるのはこれが初めてだった。
信じてもらえるだろうか……。いや、信じられなくてもいい。今は何より、自分はたった一人きりじゃない思わせてくれる、誰か
との繋がりが欲しかった。
「助けて下さい……っ!!」
画面の向こうにいる誰かに、この文字が届くと信じて。
少年は、『くろちゃんねる』に一縷の望みを託した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【助けて】気付けば知らない場所なう【下さい】
・
・
・
26.別世界のななし
今のとこ他におかしな所はないのか?
27.別世界のななし
でも異次元ってよく空が赤いとかいうけどな。
この写真見る限りはめっちゃ普通のとこに見えるけど。
28.別世界のななし
まぁこの写真をついさっき撮ったてんなら話は別だけどな。
こんな青空おかしいだろ。
29.別世界のななし
現在時刻は22時を迎えております。
30.黒
信じてもらえないのも分かりますが、さっきの写真は本当に今撮ったものです。
空が赤い系はよく聞きますね。
だから僕も、今この場所が異世界だっていうのが余り信じられないんですが…。
でも、妙に静かです。
こんなに自然が多いんだから鳥の声ぐらいしてもいいものなのに、何も聞こえません。
31.別世界のななし
それは確かにおかしいな。鳥の声なんて田舎じゃなくても聞こえるぞ。
32.別世界のななし
田舎住みだと年中ピーチクパーチク聞こえる。
33.別世界のななし
_
ノ㌻ ホー ホケッ
 ̄" ̄ ̄
れ、練習中なんだからねっ!
34.別世界のななし
>>33 おるwww鳴き方へったくそな鶯なwww
35.別世界のななし
>>33 あれはあれで情緒があるwww
36.別世界のななし
やっぱり黒以外にその世界に誰もいないのか…。
37.別世界のななし
いるとすれば…。
38.別世界のななし
>>37 おいやめろ
39.別世界のななし
>>37 お腹きゅうってなったじゃんかあああ(>'A`)>ウワァァ!!
40.黒
>>37 止めてください必死に考えないようにしてるんですから。
でも、一応民家は見えているんですが…。
これってやっぱり僕は動いた方がいいんでしょうか。
怖くてさっきからずっと一か所にとどまってるんですけど。
41.別世界のななし
闇雲に歩かない方がいい。
と言っても、じっとしててもな…。
42.別世界のななし
とりま周辺探索しろし。
報告待機(バッ
43.別世界のななし
>>42 甘いな。俺は最初から着てないぜ!
そこが異世界なら何かきっかけがあったと思うんだけど。
まず何故そんなことになったのか原因を考えようぜ。
44.別世界のななし
>>42 ここ最近一日中全裸の俺に死角はないぜ!
黒、最近変わったこととかしなかったか?
45.別世界のななし
>>44 一日中全裸…お前ニートだな?
確かに。何かきっかけがあったはずだ。
46.別世界のななし
>>45 目敏い子は嫌いよっ。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。ウァァァン
47.別世界のななし
>>45 やっぱりニートかwww外出ろwww
48.別世界のななし
>>45 自宅警備員の俺を見習え。
49.別世界のななし
>>48 お前それニートと同義語だろwww
50.黒
別に何も変わったことはしてないはずなんですけど…。
ここ最近どこにも行ってませんし、変なものも拾った覚えもないです。
今日は平日なので、いつも通り学校行って、部活やってマジバによって家帰ってきてお風呂入ってゲームしてました。
51.別世界のななし
なんか…青春って感じで羨ましい(´;ω;`)ブワッ
52.別世界のななし
部活なぁ。俺帰宅「部」ってなってるのに部自体がないことに不公平さを感じて帰宅部作ったわ。
53.別世界のななし
>>52 お前んなもん作って何すんだよwww
54.別世界のななし
>>52 帰宅wwww部wwwwうぇwっうぇwww
55.別世界のななし
>>52 やべぇツボったwwwバカじゃねぇのお前wwww
56.別世界のななし
>>52 部長「お前ら集合!( ー`дー´)キリッ」
部員「はい!」
部長「いいかお前ら!いつも言っているが、帰るまでが学校だお!( ー`дー´)キリッ」
部員「はい!」
部長「信号を渡る時は!?」
部員「右左の確認!」
部長「よし!じゃあ今日も気をつけて帰るように(`・ω・´)ゞビシッ!!」
部員「お疲れ様でした!(`・ω・´)ゞビシッ!!」
57.別世界のななし
>>56 wwwwwwwwwww
58.別世界のななし
>>56 はよwwww帰れしwwwwww
59.帰宅部部長52
すげぇな>>56。ほぼその通りだ。
60.別世界のななし
>>59 wwwwwwwwwwwww
61.別世界のななし
>>59 まwwwじwwwwでwwwwww
62.別世界のななし
>>59 もうバカwwwwwwww
そういや黒スペックにゲーム好きって書いてあったな。
どんなゲームしてたん?
63.黒
>>56 不覚にも笑ってしまった( ゚∀゚)<プップー
ちょっと悔しい。
>>62 フリーのホラーゲームです。
結構面白いとの評価が入っていたので、試しにダウンロードしてやってみてました。
64.別世界のななし
ちょwwwwバカにしてるだろwwww
65.別世界のななし
悔しがってないだろ絶対wwwww
66.帰宅部部長52
お前帰宅部嘗めるとかもう激おこぷんぷん丸なんですけどヽ(`Д´)ノプンプン
67.別世界のななし
嘗めてるとムカ着火ファイヤーしちゃうぞ☆
68.黒
>>66、67 Σ(゚∀´(┗┐ヽ(・∀・ )ノウルセーヤイ
ずっとここにいるのもあれなので、覚悟を決めて探索に向かいたいと思います。
69.別世界のななし
お!黒がついに動くか!?
70.別世界のななし
蹴られたwwww
71.別世界のななし
黒のスペック
・DK2
・某球技部所属
・影が薄い
・好物はバニラシェイク
・身長低い
・意外と腹黒い←NEW
・意外と手が早い←NEW
72.黒
失礼な。僕の身長は平均です。周りがでかすぎるんです。マジ縮めし。
よし、探索逝ってきます。
73.別世界のななし
否定するとこwwwwそこなのwwww
74.別世界のななし
いてら!気をつけろよ!
75.別世界のななし
いてr…って黒その変換らめえええええぇぇ!!!
76.別世界のななし
あ、ちょっと待って黒!さっき言ってたフリゲーのタイトルおせーて!
77.黒
>>76 「故郷へ」というタイトルでした。
製作者さんとかの名前は忘れちゃいました、すいません。ホラゲーで検索するとすぐ出てくると思います。
ではちょっと落ちますノシ
78.別世界のななし
いてらー!
79.別世界のななし
気をつけてなーノシ
・
・
・
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珍しく友人からいきなりチャットが入ったと思えば、それは一つのURLだった。
なんだこれと思っていると、続けてポヨンと音が鳴る。
>>『これ面白ぇから見てみろよ!因みにくろちゃんな!』
>>『何お前書込してんの?』
>>『いや、俺ROM専www』
『こりゃ良スレになるね!』
『こういう俺の感は当たるんだぜ!』
少年はポヨンポヨンと飛んでくるチャットにそこまでの興味を示したわけではなかったが、見るだけ見てみるかとそのリンクを
クリックした。
【助けて】知らない場所なう【下さい】
そうスレタイのつけられた掲示板は、どうやらオカルト専門の場所に立てられているものらしい。
そう言えばこの友人はオカルトや都市伝説系の話が好きだったことを少年は思い出した。
だからと言ってその友人と違いオカルトなど毛ほども信じていない少年は大した興味も持てず、ただマウスの中心に備えられた
ホイールをコロコロと転がすだけだ。
ざっと見た所、このスレを立てた人物は今現在この世の何処でもない所にいるかもしれないらしい。
>>『異世界系なんだよ!』
『ロマンだよなぁ異世界!』
未だポヨンポヨンと飛んでくるチャットに適当に答えつつ、異世界なんてあるわけないだろと小さく呟いた。
それにもし現在進行形でこのスレ主が本当に別世界に行ってしまっているんだとしたら、ロマンだとかそういうことを言っている
場合ではない。
少年は友人の楽天的な物言いに呆れた様子を隠そうともせず適当に返事していたのだが、不意にコロコロとホイールを転がすだけ
だった指がピタリと止まった。
>>『なぁ、「故郷へ」ってどんなゲーム?』
それはスレ主の発言だった。
ホラー系のフリーゲーム。スレ主曰くそこそこ評価されているらしいゲームに、少年は興味を惹かれたのだ。
少年はゲームに詳しいというわけではなかったが、この前この友人からの勧めでプレイした同じホラー系のフリーゲームが面白く、
現在進行形でホラーゲームブーム真っ只中なのである。
自分なりに色々と調べてやってみてはいるのだが、中々最初にプレイした以上のものとは今のところ巡り合えていない。
自他共に認めるホラゲー好きの友人からの返答は、すぐに返って来た。
>>『いや、俺それ聞いたことないんだよな』
友人のその反応に、少年は虚を突かれたというように目を瞬かせた。
言うのはなんだがこの友人かなり重度のオタクである。
それ関係のことを尋ねて、「知らない」「聞いたことない」という言葉が返ってきたのは、今回が初めてだった。
>>『え、マジで?でもそこそこ人気なんだろ?』
>>『うーん…。俺も「マジか!?」と思って検索かけてみたんだけどさ』
『いくら調べてみてもヒットしないんだよね』
『「故郷へ」なんてゲーム、ないんだよ』
ゲームが存在しない。期待に胸を膨らませていた少年は、がっかりと肩を落とした。
一応自分でも「故郷へ ホラーゲーム」と検索をかけてみたが、友人の言うとおりそんなようなゲームはヒットしなかった。
>>『じゃあこれスレ主の嘘ってことか?』
>>『んーどうだろう。記憶違いが、あるいは打ち間違いの可能性もあるけど』
『今スレ民達もそれで論議してる。俺は記憶違いだと思うけどね』
>>『そっか。じゃあまた黒が上がって来た時に誰か聞くよな』
>>『うん。聞くと思う』
『あ』
>>『どした?』
>>『今スレ見てない?』
『「故郷へ」を見つけたって書き込みが入ったんだよ』
>>『どうせ釣りだろ?』
『現に俺達は検索掛けてヒットしなかったんだから』
>>『まぁね。そうだろうけど。こいつ超草生やしてるし』
『あーあ、やっぱ釣りなのかなぁ』
>>『どっからどう見てもそうじゃねぇか。大体異世界なんてあっかよ』
『俺風呂行ってくっから落ちるわ』
>>『もー、お前ったらロマンのない奴だな!』
『ポチャいてら~ノシ』
友人の書き込みに、少年はポチャが風呂のことを表しているということに考え至るまで数秒時間を要した。
相変わらず訳のわからない言葉を使う奴だと悪態を吐きながら少年はチャットを閉じ、そのままスレを表示しているwebページの
バツボタンにカーソルを合わせ……少し考えてからクリックせずにマウスから手を離した。
少年には正直このスレが本物だろうが釣りだろうが(まぁ100%釣りだろうけど)どうでもいいが、ゲームの情報については少し
興味があった。
打ち間違いや記憶違いだったのなら、新しい情報が出てくるかも知れない。
そう思った少年は、二窓開いているそのwebページを残したまま風呂へと向かった。
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その日の少年の星占いは1位だった。
だが少年はそれだけで満足することはなく、指定されたラッキーアイテムをきちんと身に着けていた。
おかげで怪我を負うことも事故を起こすこともなく、一日を無事に過ごせるのだ。
少年は今日一日自分を守ってくれたギンガムチェックのマグカップを枕元に置く。
例え後数時間足らずで今日という日が終わるとしても、最後まで気を抜くことは出来ない。それが占いの結果が1位であろうとも、だ。
少年は最近買い換えたばかりのスマートホンを手に取ると、一つだけブックマークしているページを開いた。
それは例の少年が傾倒しているニュース番組のホームページで、彼はもう既に聞き及んでいる記事ばかりのページを気にかける
ことなく、占いの特設ページへと飛ぶ。
この間までは早朝の時間帯に放映されているこの番組の中で占いを確認していたが、スマホに買い替えてからはめっきりこのサイトに
世話になっていた。
大体この時間帯になるともう明日の分の占いの結果が表示されているのだ。情報は早ければ早いに越したことはない。
「む……10位か……」
12位よりは良いとは言っても、やはり下位順位である。
少年は顰め面を作って、これは早々にラッキーアイテムで補正しなければとページをスクロールした。
―――今日は色々と困難の多い日になりそう。行き詰りそうになった時は、思い切って飛び込んでみて!ひょんな所から解決の糸口が
見つかるかも!ラッキーアイテムは今日の朝刊!では、良い一日を!―――
今日の朝刊……少年は顰め面をますます渋いものにしながら、はぁとため息を吐いた。
この占い師の言う「今日」というのは、今現在の少年からしてみれば「明日」のことである。
明日の朝に配達されてくる新聞を、この時間帯に入手することはまず不可能だ。
少年は仕方がない、とナイトキャップを被るとスマホの電源ボタンに手を掛けた。
大体過去の経験からして順位が低い日の夜は必ずと言っていいほどこれが着信を告げ安眠を邪魔してくるのだ。
頭の中に浮かぶのは、黄色いのと、でこっぱちの二人の友人。
だがふと、そう言えば電源を切ると朝のアラームはどうなるのだろうかと考える。
少年は朝に弱い。どうやら彼は音よりも振動の方に敏感らしく、携帯のバイブレーションで意識を持ちあげるのが常だった。
アラームが鳴らないのは困る。だが今から説明書を取りだして一々やり方を確認するのも面倒くさい。
少年は機械いじりが嫌いではなかったが、決して得意ではなかった。
それで時間を取られるならば、かかって来た電話を一瞬で切ってやる方がよほど賢い選択だろう。
結局スマホの電源は消さないままにしておくことにした。
さてそれでは寝ようかと少年がナイトキャップを被ったと同じくして、枕元に置いたスマホが着信を知らせる音楽を鳴らした。
自分の知らぬ間に勝手に設定されていたその音のおかげで、画面を見ずとも、送り主の判別もつけばメールと電話の区別もついた。
まだ日は変わってないぞと思いながら、とりあえずメールだったそれを開く。
>>なぁなぁ、「故郷へ
「……なんなのだよ」
中途半端に途切れているその内容に、少年は首を傾げた。
何かの台詞か、あるいはタイトルか。どちらにせよ緊急性のない内容であることは確かだ。
誤送信であれば、あいつのことだ続きなり謝罪なりまたメールを入れてくるだろう。
少年はそう結論付けてメール画面を閉じると、眼鏡を外し枕元に置いてある眼鏡ケースへと仕舞う。
部屋の電気を消し、少年が布団に入って10分も経たない内に健やかな寝息が静かに室内に満ちた。
今日という日が終わるうちに、少年のスマートホンが着信を告げることはなかった。
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