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*くろちゃんねる要素あり。
無事黄瀬と合流出来た黒子と高尾は、現在公民館まで戻ってきていた。
恐らくもう大丈夫とは思えども、やはりここを通りがかる際の黒子の表情は固い。
黒子の話を聞き一通りスレッドにも目を通していた黄瀬が、そんな黒子を庇うように公民館側に立つ。
出来るだけ遠くからそろりと付近に目を凝らすが、関口君らしき者の姿はなかった。
安心したように息を吐き、けれど辺りに警戒は置いたまま公民館の前を通り過ぎる。
先ほど高尾と黒子が上ってきた坂道を、今度は3人で下った。
「この星印の所に何があるか、今のとこ何の予想もついてないんスね?」
黄瀬が黒子の持つ地図を覗き込みながらそう尋ねる。
「全く。正直このゲームの趣旨すらよくわかりません」
一応少しはゲームを進めた身ではあるが、本当に冒頭部分の所しか見ていない。
―――そもそも、何故あの公園だったのかも、黒子はずっと引っかかっているのである。
「僕がゲームを始めた時、冒頭はあの公園じゃありませんでした」
黒子の言葉に、黄瀬がえ?と目を瞬く。
しかし高尾の方はそれに対して同意を示した。
「だよな。俺もマジちょろっとしか見てないんだけどさ、確か最初のグラフィックって室内じゃなかったかなって
思ってたんだ」
「ええ、主人公の女の子が自室で目覚めるところから始まったはずです」
「へぇ、そうなんスか」
「もしかして黄瀬君は違ったんですか?」
黒子の問いかけに、黄瀬は困ったように眉を寄せた。
よくわからないが黄瀬はあのゲームを自分で起動させてはいない。勝手に起動したのだ。
黒子から来たURLをクリックしたらダウンロードページへと飛んで、なんだこれと思っているうちに勝手にインストールが
始まって勝手にゲーム画面が開いたのである。
勿論そんなことが目の前で起こって冷静でいられる黄瀬ではない。
飛び退るようにパソコン画面から離れて、緑間に電話を掛けようと電話を手にし……そこからプッツリと記憶が途切れている。
「目が覚めた時は訳わかんなかったっス……」
確かにそれでは何の知りようもない。
黒子は黄瀬を見つけた時の、耳を後ろに倒し尻尾が綺麗に内側にくるんと収まってしまっている姿を思い出した。
いや実際に黄瀬に耳も尻尾もついてはいないのだが、あの時の彼の姿はまさしくいきなり知らない所へ放り出され怯えている
わんこそのままに思えた。
飛びついてきたのをさらりと躱したのは本当だが、余りにも捨て犬さながらのその様に思わず自分より20㎝以上高い頭を撫でて
しまうくらいには哀愁漂っていたのだ。
「これ、くろちゃんに書いた方がいいですかね」
「とりあえず今書き溜めしてる。でも些細なことでも、気付いたことは言っといた方がいいと思うぜ」
ゲームの始まりが自分達とは違った。
それが何かのヒントになるかはわからないが、とりあえず今はなんでもいいから情報が欲しい。
「紫原っちも、こっちに来てるんスよね……」
先ほど緑間がスレで「赤が紫からURLが届いたと言っていた。恐らく紫もそっちにいるはずだ」と教えてくれた。
赤は赤司。紫は、紫原のことだ。
どうやら黒子と紫原がスカイプアドレスの交換をしていたらしい。きっと紫原は、黒子からのURLを開き、ゲームの中へと入って
しまったのだろう。
黒子は携帯を握る手にぎゅっと力を込めた。
「……紫原君まで。彼らに何かあったら、僕は……」
「黒子?」
高尾が心配そうに黒子の顔を覗きこむ。
同様に黄瀬もどうかしたのかと黒子の様子を窺っていた。
優しい……こんな優しい人達を自分は―――巻き込んでしまった。
「僕のせいです……全部。僕が、あんなゲーム不用意に開いてしまったから……っ」
「え、ち、違う!違うっス黒子っち。黒子っちのせいなんかじゃない!自分を責めちゃダメっス!」
普段バスケのこと以外では余り動くことのない黒子の顔が、今は後悔と自責の念に溢れていた。
自分がこのゲームを始めなければ、掲示板にスレを立てなければ……。
この世界に一人でないことを喜んだのもつかの間、自分が彼らを引きいれるきっかけになっていたのだと知った今、とてもでは
ないがもうそのことに喜んでなどいられないと黒子は唇をかんだ。。
とんでもないことに巻き込んでしまったのだ。火神や青峰ともお互いスカイプを知っている。それならばその二人だって自分が―――。
「すいません。二人とも……皆、スイマセン……」
今にも泣きだしそうなほどに顔を歪めた黒子が痛々しい。
だが黄瀬も、高尾だって巻き込まれたなどと思ってはいなかった。
どうして黒子が始まりだったのかはわからないが、きっとそれだって黒子が望んだことではない。巻き込まれたのは、他ならぬ
黒子なのである。
掲示板にスレ立てをしたことだって、突然あんな状況に一人放り出されたのにも関わらずよくそれが思いついたものだと、称賛
こそすれ責めるつもりなど毛頭なかった。
そのおかげで自分達はこうして、黒子の元へと来られたのだ。これが助けに来たと言えないのがどうも格好がつかないところでは
あるけれど。
「でも、俺よくお前のスレ見つけたって、自分で自分を褒めてやりたいくらいなんだぜ?じゃないとお前がこんな目にあってるって
気付かないまま、二度と会えなくなってかも知れねぇんだから」
「そうっスよ!ホントに、ホントにあのまま黒子っちに気付かないでいたらと思うと……俺そっちの方が怖いっス……っ」
「高尾君……黄瀬君……」
無事で良かったっスよぉ!と抱きついてくる黄瀬を、今度は避けることなど出来なかった。
ぎゅうぎゅうと黄瀬に抱きこまれ、その温かさに泣きそうなほどに安堵する。
高尾を見れば、ニカッと笑って何故かスマホの画面を見せられた。
開かれているスレには、きっと高尾が今のことを実況したのだろう、『黒』に対し叱咤激励する声が文字となって並んでいた。
「『何を言っている馬鹿め。誰がいつお前を責めるようなことを言った。こいつらは自分から巻き込まれに行ったのだよ。特に黄の奴
などどれほど俺の耳元で黒っち黒っちと喚きいらしていたと思う。それが一番迷惑だったのだよ。
いいか、お前が一人そのまま消えていたら、その迷惑を数倍に被ることになっていた。ならばこちらの方がよほど俺達にとってはマシな
ことだ。それでもお前が巻き込んだと思うのならば、ちゃんと無事に帰ってくるのだよ。その時に幾らでも説教してやる』だってさ。
この長さで即レスだぜ?緑タイピング早ぇwww」
声真似をしながら緑間からのスレを読み上げた高尾は黒子の心情を笑い飛ばすかのように言った。
「いいんだよ。お前を助ける為に皆が手貸してくれるって言ってんだ。諦めて巻き込んどけって」
―――頬に一滴涙が伝う。それでも黒子は、笑った。
これはもう、自分は本当に恵まれていると実感せざるをえない。
巻き込みたくなかった。けれど、自分が原因だと知ってなお、今ここに一人じゃないことに安心を覚える自分が堪らなく醜く思えて
ならなくて。
そんな自己満足な謝罪さえも、笑い飛ばしてくれる優しい人達。
黒子はぐいっと涙をぬぐった。
泣いている場合じゃない。一分一秒でも早く、ここから皆で無事に脱出することが第一だ。少なくとも、この二人だけでも絶対に元の
世界へ戻さねば。
「すいません。ありがとうございます」
小さく笑んで見せた黒子に、黄瀬と高尾はホッとしたように笑った。
気を取り直して黒子が開いた地図を、二人も覗きこむ。
歩みこそ遅いものだったが、着実に目的のポイントには近づいていたらしい。
坂を下りきっていた3人が地図と今いる場所を照らし合わせると、どうやら目的の場所は右手に立ち並ぶ住宅街の中にあるようだった。
住宅街と言っても、まだ所狭しと家々が立ち並んでいるわけではない。土壌だけが家を建てれるように整備してある、所謂分譲中と
いうところだろうか。
きっと数年後には最近のシャレた小じんまりとした一軒家が立ち並ぶだろうなということが推測される。
その中にも何軒かはもう既に人が住んでいるような家が建っていた。
住宅地に入る入り口でそのポイントの場所を見てみると、どうやらこの道の一番奥にある建物らしかった。
3人は少し足早にその家に近寄ると、門の所にインターホンが誂えてあったのでとりあえずそれを押してみる。
「……ピンポン鳴りました?」
「わかんない。鳴ったのかな?」
チャイムの音が小さいのかはたまた壊れていて鳴っていないのかはわからなかったが、中からチャイムが鳴ったと思わしき音は
聞こえてこなかった。
暫く待ってみたがインターホンに誰かが出る様子もなければ、中に人がいる気配も感じられない。
黒子を筆頭に門を開けて中に入ると、試しに玄関の扉に手を掛けてみる。
するとそれはガチャリと音を立て、何の抵抗もなく開いて見せた。
思わず黒子が後ろの二人を振り返る。二人も普段とは打って変わった緊張感を纏わせて黒子に頷いてみせた。
普通のごくごく一般的な家だ。少し躊躇したが、何があるかわからないということで失礼ながら土足のまま踏み込ませて貰う
ことにする。
「分かれて調べた方がいいんスか?」
とりあえず家の中に入ったら探索だと言われていた黄瀬が、黒子と高尾に問いかけた。
確かに手分けして探した方が効率自体はいい。だがここでは一体何が起こるか全く予想がつかない為、一先ず全員纏まって行動
することにした。
「まずはリビングからですね」
一階はリビングキッチン、風呂場、手洗い場、そして6畳ほどの洋室。
一室一室を隈なく探してみたが、一階にあるどの部屋からも目ぼしいものは見つからなかった。
ただ気になったのは、冷蔵庫に貼られていたメモ用紙。
"ゴミはゴミ箱へ"と書かれている普通のメモ用紙なのだが、字が手書きではなくワープロ打ちだったのだ。
何かあるのかと外そうとしたが、貼りつけに使われている磁石は動かすことが出来ず、どうやら持っていけるものではないようだった。
とりあえず写真だけ撮ってスレにアップする。
他の部屋の様子も、公民館の時と同様に大まかに撮って上げておいた。
「にしても、どの部屋も撮るのに気が引けるレベルで普通なんだけど……」
パシャリとスマホで写真を撮りながら、高尾がボソリと呟いた。
確かに、ゲームの中とは思えないほどに家の中はどこもかしこも現実にあるものと大差ないように見えた。
モデルルームのそれとも違う。なんというか、生活感があるのだ。部屋の中を見渡せばどことなくこの家の家族の姿が見えてくるような。
だが実際に手に持とうとしたり動かそうとしても、それらはその場からピクリとも動かないのだが。
「なんか……気味悪いっスね……」
さっきから鳥肌止まんないっス、と黄瀬が自分の腕をさする。
それは黒子と高尾も同じだった。
一階では最後の部屋になる6畳の洋室を調べ終え、次は二階かと部屋から出ようとした矢先―――
ドンッ!
―――と、上で何か重たいものが落ちる音がした。
思わず3人とも息を呑み、身を竦めて体を寄せ合い、自分達のすぐ真上を見上げた。
「何っスか……っ!?」
「何か落ちた……いや、倒れたのかも知れません」
本当に、この真上の部屋だ。
暫くそのままジッと睨みつけるようにそこを見つめ、耳を欹てていたが、それ以上は何も起こらなかった。
体中に入っていた力をゆっくりと抜いて行く。
高尾がそっと黒子の名前を呼んで、背中をポンポンと叩いた。
「大丈夫か黒子」
この中で唯一関口君を目撃している黒子が、多分一番恐怖を目に見えるものとして捉えているはずだ。
先ほどのこともあって気丈に振舞おうとはしているが、時折何かから逃げるように小さく頭を振っている。
黄瀬と高尾はスレへの報告と称して、黒子の気が落ち着くのを待った。
称してと言っても、一階の探索報告と今の音のことと伝えることはあった為あながち嘘ではないのだが。
少しだけ関係のない雑談も交えつつ黒子が落ち着いたのを見計らって、高尾が「さて、行くか」と声をかけた。
「何があるかわからない。油断はしないようにな」
本当ならキッチンにある刃物類を無理やり引っぺがしてでも持っていきたい気持ちである。先ほど試みたところ本当に不可能
だったのでもうしないが。
今度は黄瀬を筆頭に、黒子、高尾の順で階段を上った。
黄瀬がそろりと覗けるギリギリの範囲から二階の廊下を覗けば、至って普通で何も変わった所は認められない。
「見える範囲には何もないっスね。二人はちょっとここで待ってて」
黄瀬は後ろの二人にそう声をかけると、一足先に二階の床を踏んだ。
短い廊下の先、目の前には一つのドア。そして廊下はその部屋まで突き当たると、そのまま右側に折れて続いていた。その先が
どうなっているのか当たり前のことながらこちらかは全くわからない。
ゆっくり、ゆっくりと廊下を進む。
そして出来る限り死角になっている、恐らく袋小路になっているであろう場所へ近づくと、黄瀬は思い切りよくバッとその前に躍り出た。
右に曲がった廊下は、長くは続いていなかった。
2mもないぐらいの廊下。そしてその正面と右側に部屋の扉が一つずつある。
黄瀬はその袋小路に誰もいなかったことにハァと安堵して、二人をこちらへ呼んだ。
「全部で部屋が3つっスね」
「僕らがさっきいた洋室の真上となると……」
「ここだな」
そこは、階段からでも見える唯一の部屋だった。
部屋の扉にはピンク色のプレートが掛けられている。名前が書いてあったようだが、かすり消えていてほとんど読めない。
「女の子の部屋かな」
「まぁそうでしょうね。きっと子供部屋かと」
パッと見でわかる情報はそれぐらいか。
どうする、と3人は顔を見合わせた。
「一番臭いのはここっスよね。どうする?まず他の所見て回るべきっスか?」
「……微妙なとこだよな」
「そうですね。……ですが、あまり悠長なことを言ってられないのも事実です。ここがゲームならば、あの音もイベントである確率が高い。
一気にここから攻めていきましょう」
あくまでゲームであることを念頭に置いて、それならば自分はまずどう動くかを思い浮かべながら黒子が言う。
高尾も黒子の意見に、自分もイベントが起きたら真っ先にそっちに行く派だと笑った。
よくわからない黄瀬は、とりあえず黒子と高尾の言い分に従う意向だ。反対意見は、出なかった。
「じゃあ、行くっスよ」
ドアノブを黄瀬が握ったのを見て、高尾が待ったを掛けた。
「ここは俺が行く。部屋の隅に何かあっても、俺の目なら見つけられるし」
確かに部屋の中の様子は、黄瀬よりも視野の広い高尾の方が適任だろう。
頷いた黄瀬は高尾と場所を交代すると、黒子と共に少し後ろに下がった。
「……開けるぜ。いち、にーの、さん!」
高尾が掛け声と共に勢いよく扉を開ける。
何が来てもいいように少しだけ後ろに下がって距離を取りながら、視界いっぱいに気を配った。
一番に目に飛び込んできたのは倒れたキャビネット。次いでベットに、机、テレビ、本棚、ぬいぐるみなどが詰まったおもちゃ箱。
動くものがないことを確認して息を吐くと、黄瀬と黒子が高尾の傍へ寄って来た。
「普通の部屋ですね」
「あぁ。あの音は……このキャビネットが倒れた音っぽいな」
3人は未だ警戒は解かないままその部屋へと入った。
「あ、ドアどうするっスか?開けといた方がいい?」
「そうですね。一応開けときましょう」
「万が一逃げるようなことがあるかも知れないしな」
じゃあ開けとくっスね、と黄瀬はドアを全開にした。
外開きのそのドアは、開くと階段へと続く壁にコツンと当たるような作りになっている。
高尾と黒子は真っ先に倒れたキャビネットへと向かうと、何かないかと探し始めた。
しかしそのキャビネット自体には特に何もなく、その周りに散らかった小物類もカーペットにくっついて取れない。
これで確信した。このキャビネットは偶然倒れたわけでもなんでもない。あの音は黒子の言った通りこの部屋へ導くための
イベントだったのだ。
予想はしていたが、やはり振り回されているようで釈然としないと高尾は顔を顰めた。
それから色々と調べたが、何も持っていけるようなものはなく3人は首を捻った。
「いやでも絶対なんかあるはずっスよね」
「なんか見落としてんだよなぁ絶対。どこだ?」
ここで何かあることは確実なのだということだけはわかっている。
どこだ。後どこを探していない?こうなれば虱潰しだと、黄瀬はもう一度机の上を、高尾はベットの上を調べ直し始めた。
その中で黒子は、もう一度部屋をぐるりと見まわした。
比較的整った部屋だ。やはり女の子の部屋らしいが、そこまで幼い子の部屋ではないのは、本棚に詰まっている漫画で推測できた。
辺りを隈なく探している黄瀬と高尾を見ながら、黒子は思考を巡らせた。
自分達を導いたあの音。イベントだとしても、あの音を聞いてこの部屋に足を踏み入れれば、自然と倒れたキャビネットに
目がいくだろう。現に自分達がそうであった。
それは、何かのカモフラージュか……それとも……。
黒子がそのキャビネットの辺りを見つめていると、ふとその後ろの壁に目が行った。
(……?なんだろう、壁の色が)
違う気がする、と思ってすぐに、あぁそうかここにキャビネットが置いてあったからだと合点がいった。
そうだ。確かにこのキャビネットは自分がこの世界に入った時からここに倒れていたんだろう。だがこれがもし画面越しのゲーム
だったらどうだ。あの音を聞いたら、今倒れたと思うのが普通じゃないか。そう、きっとこのキャビネットは"ついさっき"倒れたものなのだ。
……だとしたら。
「こんなところに、写真立てが落ちるわけありませんよね」
壁の日焼けの後から見て、恐らくキャビネットが置いてあっただろう位置に"落ちている"写真立て。
勿論先ほど手に取ろうと触れて、動かなかったから意味のないものとして見ていたが……。
もう一度写真立ての足の部分を引っ張ってみたが、やはり動かない。
黒子は少し考えると、フレームとカバーを外れないようする金具を動かしてみた。
するとその金具は動くようで、黒子は4つともその出っ張りを外へ向けると、もう一度足の部分を引っ張った。
(……!外れた)
これはまた、ややこしいことをしてくれる。
いやだがこれもゲーム中では"写真立ての中から紙を見つけた"だけで済むことなのだろう。
その写真立ての中には、写真ではなく折り畳まれた紙が入っていたのだ。
「高尾君、黄瀬君、ちょっと来てください」
黒子が呼びかけると、各々部屋を弄っていた二人がパッとこちらを向く。
「あ、黒子何か見つけたの……、っ!!」
喜色を浮かべて黒子へと言葉を投げていた高尾が口を噤み、サッと顔色を変える。
黒子と黄瀬も同じように全身に緊張を走らせ、黄瀬が素早く黒子の傍へと近づいた。
―――扉の開く音が聞こえたのだ。
3人はちらりと窓の向こうを見た。
窓の外に見えるそこそこ大きな木を伝っていけば、一応この場からは逃げられる。
最悪の場合は3人ともそこから逃げ出す手筈だった。
音の大きさからして、恐らくこの階にある部屋の後どちらか二つのものが開いたのだと思う。
だがそれにしてはその後すぐにアクションが続かなかったのが、3人の足をこの場に留めている理由だった。
何も聞こえない。何も近づいている様子がない。
なんなんだと思っていた矢先―――声が聞こえてきた。
「なぁ、誰かいるのか?」
その声に、黒子の目が見開いた。
思わず目の前の黄瀬のシャツをぎゅっとつかむ。
振り向いた黄瀬は満面の笑顔を浮かびながら黒子から離れた。
「黒子っち!火神っちっスよ!」
黄瀬が扉に向かって駆けだす。
嬉し気に後に続こうとした高尾を制したのは、黒子だった。
「黄瀬君!ダメです!」
がむしゃらに黄瀬に追いすがる。
この二人は絶対に、絶対に元の世界に戻さなくてはいけないのだから。
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相田リコは、その日深夜に掛って来た着信に、というよりも着信の相手に驚いた。
色々と突飛な言動をする彼ではあるが、マナーやエチケットには割とうるさいタイプだと思っていたこともあるし、単純に滅多に
表示されることのない名前だからだというのもある。
リコは頭の中に部のスケジュールを思い浮かべながら電話を取った。
「もしもし、赤司君?」
『こんばんわ。夜分遅くに申し訳ありません、カントクさん』
リコへのその呼び名は、もうあだ名のようになっていた。
きっと黒子や火神がカントクというものだから、赤司もそれで馴染んでしまったのだろう。
別に嫌でもなければ逆に結構気分がいいというのもあってそのままにしている。
「赤司君がこんな時間に電話くれるなんて、珍しいわね。急用かしら?」
『はい。かなり、危ない事態になっています。とにかく、驚かないで僕の話を聞いてください』
危ない事態、と聞いてリコは眉を潜めた。
どうやら部活云々の話ではなさそうねと、リコが手に持っていたペンをノートの上に放る。
結論から言えば、赤司の話は余りにも突拍子なさ過ぎて理解が出来なかった。
最初は真剣に話しを聞いていたリコも、最後の方には耐えきれずこれどうすればいいのよと頭を抱えて声を出さずに唸る始末だ。
怪奇現象?ゲームの中に入った?命が危ない?
意味がわからないとリコはドンと机を叩いた。
「あんた達夜中まで何の遊びしてんのーっ!さっさと寝なさい!!」
『待ってカントクさん、頼むから僕の話を聞いて欲しい。本当に、本当の話なんだ』
一喝して切ってやろうとしたリコだが、通話口から聞こえる珍しく切羽詰まったような赤司の声にしぶしぶと話の続きを聞いて
やることにする。
『カントクさん、パソコンは持ってますか?』
「えぇ。一応ね」
『スカイプはやってますか?』
「やってるわよ。まぁ部活専用だけどね」
部活専用……と赤司が小さく呟いた声がやたらと耳に響く。
どうしたのと声をかけるよりも先に、赤司から何も言わず今すぐパソコンを開いてくれと言われた。
赤司のその有無を言わさぬ声色に思わず「う、うん」と上ずった声を返しながら、リコは閉まってあるノートパソコンを取りだして立ち上げた。
『スカイプに部員からメッセージが届いていても、決して開けないで』
「え、わかった……けど……」
固い声。合同合宿の練習中、集まっては馬鹿をやるキセキの連中を叱る時ですら、ここまでの固い声は出していなかった。
先ほど聞かされた俄かには信じられない話。けれどそこまで深い付き合いじゃない自分でもわかる。赤司は、夜中にそこまで親しくもない
他校の知り合いに冗談交じりに電話をかけてくるほど、酔狂な人間ではない。まぁぶっ飛んではいるけれど。
それに……赤司はあれでもキセキ達、元チームメイトを大切に思っている。そんな彼が、そのキセキを捕まえて命が危ないだのなんだの
という冗談を言うだろうか。しかも、騙しても何の得もない私相手に?
考えれば考えるほどわからなくなってきて、リコは苛立たしげに先ほど放りだしたペンでノートをぐりぐりと意味もなく塗りつぶした。
立ちあがったそれにパスワードを入れてデスクトップを表示させる。
「開いたわよ赤司君」
『恐らく黒子と火神からメッセージが来ています。けれど、絶対に開かないで下さい』
再び忠告されるそれに一体そのメッセージがなんだと言うんだと思いながら、程なくしてポヨンポヨンとスカイプに何件かのメッセージが
届いた。
スカイプを開いてみると、確かに赤司の言った通り黒子と火神からメッセージが一件ずつ届いている。
「で?」
『カントクさんのスカイプIDか、PCのメールアドレスでもいいので教えて貰えませんか。見て貰いたいサイトがあるんです』
ここまで全然話の筋が見えないながらも、リコは赤司にスカイプIDを教えた。
程なくして恐らく赤司だろうと思われるIDからコンタクトが来て、それを了承すればすぐにメッセージにURLが載せられてきた。
「全く、それでこのサイトはなんなの?」
『黒子がくろちゃんねるに立てているスレッドです。コテハン……区別できる名前を付けている人達が、今回巻き込まれた
メンバーです』
くろちゃんねる……名前を聞いたことは勿論ある。
時折有意義な情報が落ちていることもあるので目を通すこともあるにはあるが、スレを立てたり書き込みをしたりというのはしたことが
なかった。
黒子がここにスレッドを立てていると言うのは少し意外だったが、そう言えばああ見えてゲームとかパソコンとか好きだって言ってたな
と思う。
いや、ああ見えてバスケが好きな熱血少年と言った方が正しいのだろうか。パッと見は文化系だし……。
そんなことを考えながらつらつらとスクロールしていた指が、徐々に早くなっていく。
気だるげに頬杖をついていた体を起こし、いつの間にか画面を睨みつけるようにしてその文面を速読していた。
最新の書き込みまで見終わった所で、「……嘘でしょ」と茫然と呟く。
その書き込みは丁度、黒と鷹と黄が今しがた自分達の真上の階で変な物音がしたという旨のものだった。
「これ、本当なの?……全部?」
『はい。だから、メッセージを開かないでと言いました』
ハッと先ほど再三言われた赤司の忠告を思い出した。
スレッドでも言われていた、ゲームの中に引き込まれた連中のスカイプアドレスを介して、このゲームのURLが拡散されている、と。
でも、でもそれならば……っ!
「か、火神君は!?火神君はどうなってるのか本当にわからないの!?」
くろちゃんねるのスレッドに書きこんでいるコテハン組が、黒・鷹・黄・緑の四人。
緑……緑間が書き込んでいる赤というのは赤司のことだ。
それからこの二人が恐らくゲームの中に入っているだろうとあげている現在消息不明中のコテハンが、青・火・紫だ。
話の流れ上この火は、間違いなく自分の後輩である火神のものなのである。
『……はい』
赤司の重い声が、それが事実であることを告げてくる。
「そんな……っ!」
既にこれが悪い冗談などと笑い飛ばせる範囲のものではなくなっていた。
この後輩達が人を傷つけるような冗談を言うような性格ではないことを、誰よりも自分が知っている。
また別の学校ではあるものの、この子達の人となりを多少なりとも知っている身としては、これが本当のことなのだと認めざるを
えないではないか。
そこでリコはハッと息を飲んで慌ててもう一度スカイプを呼び出した。
もしメッセージが来ている、イコール、ゲームの中に入っているということであるならば―――。
「……からも、来てた……」
『え?』
聞き返す赤司の声も碌に頭に入ってこないまま、リコはそのスカイプ画面を見て愕然としながら、とうとう我慢出来ずに泣きだして
しまった。
『カントクさん!?どうしたんだ、何があったっ』
「もう一人から、メッセージ来てた……っ」
『……まさか』
「ふ、降旗君から、メッセージが届いてるのぉ……っ!」
わぁんと声を上げて泣き出したリコに、赤司は電話の向こうで息を飲んだ。
降旗……一度ストバスで話したことがある。
『カントクさん。厳しいことを言うようだが、泣いている場合じゃない』
「ひ……っぐ……ぐす……う、ん……っ」
『すぐに誠凛の人達に連絡網を回してくれ。それから、そっちの主将と連絡を取って。叩き起こしても構わないから』
一緒にいて貰った方がいい、という赤司の言葉に、リコは頷いた。
とてもじゃないが、今このスレッドを一人で読み続ける自信はない。あの子達にいつどんなことが起こるかわからないこの文章達を、
けれど読まないわけにはいかなかった。
赤司と二、三言葉を交わして通話を切る。
コテハン組から反応のないスレッドを見ながら、リコは誠凛のバスケ部主将―――日向に連絡を入れた。
日向は寝ている所を起こしてしまったようだったが、泣きじゃくって何を言っているのかよくわからないリコに焦ったようで、とりあえず
すぐにそちらに行くと言ってくれた。
後のメンバーにはメールを送っておくことにする。多分皆寝ているだろうし、無理やり起こして負担を掛けるのも可哀想だ。
拭っても拭っても溢れてくる涙にぼやけた視界でなんとか文字を打ったそれを一斉送信したのと同時に、電話が着信を告げた。
その着信相手を見てリコは少しだけ目を見開き、ついでグイッと涙を袖で拭うと無理やりに気丈な声を出した。
「もしもし、桃井?掛けてきた理由は―――赤司君から聞いてるわ」
通話口の向こうで、しゃくり上げる声が聞こえてくる。
『さ、っさっき……、ミドリンから、電話、あって……大ちゃん、部屋に、いな……っ』
「うん」
『ど、しよぉ……大ちゃ、帰って、来なかっ、たら……どぉしよぉ……っ、リコさ……』
「ううん。帰ってくるわ。きっと、無事でいる。……無事で……いるはずよ」
言いながらリコは、先ほどからコテハン組が姿を現さないスレッドを見つめた。
(無事でいて……皆……っ)
願いを、どうか届けて。
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