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いつも通りギルドでの仕事を終えダングレストにあるアジトに戻ると、そこには既に同じように依頼を終えた仲間が集まっていた。
どうやら自分が一番最後だったらしい。
「悪い。待たせたか」
「ううん大丈夫だよ。皆ちょっと前に帰ってきたとこ」
「そうか」
待たせたわけではないらしいと安堵すると、ユーリは一つ空いていた椅子に腰を下ろした。
木製のテーブルと対になっているその椅子はギルドのメンバーと同じ数だけ置いてある。
向かいに座るレイヴンと目が合うと何か意味ありげに笑われたが、その笑みの理由がなんとなくわかったからユーリはあえて
それを無視した。
「はいユーリ」
ジュディスがユーリの目の前にコトリとティーカップを置いた。
礼を言って口をつけるが少し甘さが足りず、傍にあった小さな瓶の蓋をあけそこから角砂糖を取り出すとポイポイと
二つほど放り込んだ。
くるくるとスプーンで紅茶をかき混ぜながら、砂糖が溶けるのを待つ。
「式典って、10時からだったよね」
ふと確認をとるかのように声をあげたのはカロルだった。
ユーリが作り置きしておいたマフィンを頬張りながら、仲間の顔を見回す。
「そうそ。式典は10時から、んでパレードは12時からよ。っても俺達は式典にはお呼ばれされてないけどねぇ」
「まぁ仕方ないよ。だからパレードがあるんでしょ?楽しみだなぁフレンの団長姿!」
「フフ、そうね。私達もまだ見ていないものね、楽しみだわ」
例の件から早1年。
全てが終わり、また始まった時からの時間の流れというのはあっという間だった。
ほとんど全てがゼロになってしまったと言っても過言ではないこの世界をどうするか。
こうなってしまった責任は自分達にある。そしてだからできることもある。
自分達の手の届くところに救えるものがあるならば、その手が傷だらけになったとしても絶対に掴みたかった。
そうして世界を飛び回っていたのは、勿論自分達だけはない。
フレン率いる騎士団も同じように世界を駆けずり回っていた。
だが率いると言ってもフレンは団長ではない。あくまで団長『代理』である。
アレクセイの突然にも近い謀反、そして崩御。変わりのように現れた星喰み。
正式に団長に就任できるような状態ではなく、一時的にヨーデルの計らいで代理へと落ち着いていたのだが、
星喰みによる世界の危機を撥ね退けた後も世界は平穏に戻ったとは言いがい有様だった。
あれから1年、漸く少しずつではあるが、嘆くしかなかった人々が自らの手で生きようと動き始めようとしていた。
その人々に見せる希望の光の第一弾に選ばれたのが、フレンの団長就任式というわけだ。
「団長、ねぇ。なんか今更って感じもしないでもないわねー」
「確かにそうね。でも、これでまた風向きが変わるかしら、ね」
「フレンなら大丈夫なのじゃ!!」
「…そうだな。あいつならやれるさ」
すっかり砂糖も溶けた紅茶を一口で飲み干すと、ユーリは椅子から立ち上がった。
「まぁまずは前夜パーティに行くとしますか。うちの宿屋の女将さんは時間にうるさいぜ?」
そう言ってニヤリと笑ったユーリに、皆の足取りも心持ち軽くその後に続いた。
********
主役を抜いたそのパーティは大層盛り上がっていた。
下町に住んでいた自分達と同じ平民であるフレンの団長就任は、彼らにとってまさしく希望なのだろう。
町の通りには幾つもの蝋燭が灯され、人の笑顔と同じように煌々とその場を灯していた。
その場に約束の時間より少し遅れて到着したユーリ達は、足早に宿屋へと向かっていた。
各々両手に持つ袋がガサガサと揺れている。
中身は食糧。未だ厳しい環境下に置かれているにも関わらず、こうして明るく笑っていてくれる彼らにこのパーティを
少しでも楽しんでもらえたらいいと、その気持ちを込めたおみやげだった。
それともう一つ。
フレンの団長就任式が決まった時にたまたま立ち寄った宿屋の女将さんにかけられた言葉。
『ありがとうねユーリ。あんた達も、よく頑張ってくれたね』
星喰みを倒したのがユーリ達『凛々の明星』の力だと知っている者達は少ない。
いや、星喰みという名前さえ普通に生活してる人達にとっては聞きなれない言葉である。
世界に異常が起こり突如大きな不安の渦の中に放り込まれたと言っても、よもや本当に人類滅亡の瀬戸際にいたと
理解している人はほんの一握りしかいないのだ。
だからと言ってユーリを始めギルドのメンバーもそれをひけらかそうとは思わなかった。
騎士団のおかげで世界は助かったのだという声も、この1年でちらほらと聞こえるようになっている。
それならそれでいい。それでフレンが希望となり騎士団が立ち直るならば、そしてこの世界がよくなるならば
全く構わなかった。
それでも、女将さんの温かい笑顔に。
『フレンの団長就任の前祝いと一緒に、あんた達の功労パーティもしようね』
そんな言葉に、皆の心に言いようのない気持ちが溢れたのも事実だった。
そうしてフレン団長就任前祝い&凛々の明星功労パーティが同時開催され、ユーリ達は招かれたというよりも
もう一方の主役という立ち位置だった。
宿屋に向かう道のりの中でも、顔見知りが冷やかしのように声をかけてくる。
けれどその中に確かな温もりを感じて、皆気恥ずかしいような嬉しいような気持ちになりながら顔を見合せて笑った。
宿屋の門を開ければ、ベルが小さくチリンと音を立てた。
騒がしい店内にそれが聞こえたかどうか定かではないが、一人が「ユーリ!」と声をあげたことがきっかけで
その場の空気が一際大きく盛り上がる。
掛けられる言葉に言葉を返しつつ、一先ずは皆で調理場へと向かった。
「悪い女将さん。ちょっと遅くなっちまった」
「ユーリ!なんだ急に皆騒がしくなったと思ったら、あんただったんだね。おかえり。
いいよ、あんたらも色々と忙しいだろうしね」
「サンキュ。んでこれ食材。よかったら使ってくれ」
「あら、いいのかい?悪いねぇ。まぁそれもこんなたくさん。ありがとうね」
「大変そうだな。なんか手伝うか?」
「アハハまたこの子は!今日はあんた達が主役だってわかってんのかい?大丈夫だからその辺で
酔っ払い達の話し相手でもしてあげとくれ」
「いや、それが実質一番大変なんだけど…」
「それじゃ青年やフレンくんの若かりし頃のオイタでも聞いて来ようかね~」
「あ!うちも行くのじゃ!!」
「あら、私も興味があるわ」
「ちょっ、お前らなぁ!」
物騒なことを言い残してホールに消えていった3人に、ユーリは深くため息を吐いた。
きっとレイヴン達から聞かなくとも、あの酔っ払い達は言わなくて言いことまでボロボロ零すに違いない。
明日以降どれだけからかわれるか……とユーリは頭に手を当てて唸った。
「最悪だ……」
「仕方ないよ。小っちゃい頃じっとしてなかったのがいけないのさ」
「ユーリの小っちゃい頃ってなんか想像つかないや」
「そ?イメージ的にはやんちゃって言うよりは可愛げのない悪さする子供、って感じだわ」
「あー」
「アッハハ。その通りだよお嬢ちゃん」
「可愛げなくて悪かったな」
ユーリはフンと鼻を鳴らしながら調理場の奥へと向かうと、カロルに「ユーリ?」と呼びとめられた。
「どこ行くの?」
「ん?あぁ、ここ忙しそうだからちょっと手伝うわ。お前らはホール行ってな」
「あ、僕も手伝うよ!」
「ユーリいいよ。あんたもあっちに顔出してきな」
「後で行くって。リタはどうする?」
「んー、ここってあんた住んでたのよね?部屋空いてるなら行ってていい?
さっきここ向かってる途中に思いついた式があって、纏めたいのよ」
「あぁ、別にいいぜ。階段あがって一番突きあたりの部屋だ。あんま根詰めんなよ?」
「大丈夫。さらっと終わらせるから」
そう言ってひらひらと手を振ると、リタは足早に部屋へと向かった。
ああは言っていたがきっとまた没頭して時間を忘れるのだろう。
後で何か持って行ってやろうと思いながら、傍によってきたカロルと共に渡された野菜がたっぷり入った籠を持って
裏の勝手口から外へと出た。
言いつけられた仕事は野菜の皮剥きだった。
ユーリがここで世話になっていた時によくやっていた仕事で、少し懐かしく思いながら野菜の皮を剥いて行く。
隣でユーリと同じように腰を下ろしたカロルも、バケツを下に置いて皮剥きにいそしんだ。
切り落とした皮がバケツにポトリポトリと落ちて行く。
「ユーリの包丁さばきはここからきてたんだね」
みるみるうちに籠からなくなっていく野菜は、それに比例してもう一つの籠に積まれていく。
いくらパーティのメンバーが増えたと言ってもここまで大量の野菜を消費することはない。
だからいつもは気づきにくいのだが、今はユーリがどれだけのスピードを持って皮を剥いてるのかがよくわかった。
「まぁ昔っからここで世話になってたからなぁ」
「そうなんだ。いつぐらいからここで住むようになったの?」
「あーそうだな。もう物心ついた時にはいたかな」
「え、そんな前から?」
「ああ。つーか俺、子供の頃の記憶が曖昧なんだ。はっきりとしてんのは10歳ぐらいからでさ」
記憶がないわけではない。
断片的だが思い出せる記憶はある。
けれどそれはどれも酷く曖昧なもので、「この頃にこれをした。」というはっきりとしたものが出てくるのが10歳からだった。
親の顔も知らない。親がいたのかさえわからない。
どこかで生きているのかも知れないが、それでも顔を知らなければ探すことなど不可能だ。
「……寂しくなかった?」
「え?あー、どうだったかな……」
寂しい、というのかどうかはわからないが、時々妙に惨めな気持ちになる時はあった。
皆で遊んだ日の夕暮れ、明るい家族のいる温かい家に帰る友達。
自分の知らないそんな空間は、けれど子供には無償で与えられるはずのものだと知った時、自分だけが見捨てられたような気がした。
「でも、フレンがいたし」
ユーリがそんな気持ちになると、決まってフレンはそっとユーリの手を取った。
いつだって、なんだって半分に分けた。
楽しさも幸せも、孤独も不安も。
自分が今こうしてここで仲間と笑いあえるのも、あの時フレンが握ってくれた手の暖かさのおかげだとユーリは思っている。
「あいつがいてくれから、な。大丈夫だった」
「……ユーリ?」
「ん?」
「あ、ごめん。なんか……間違ってたら、気にしないでほしいんだけど」
「なんだよカロル」
「ユーリ、……寂しい?」
カロルの問いかけに、野菜を剥いていたユーリの手がピタリと止まった。
ドキッと音を立てた心臓に気付かないふりをして、努めてなんでもないような表情を取り繕う。
そして「どうしたよカロル先生」と笑おうとして、思いもかけず真剣なカロルの目とかち合った。
思わずグッと息を詰めたユーリに、カロルは少しだけ俯いた。
「余計なお世話だったらごめん。でもユーリ、なんだか辛そうっていうか、無理してるみたいだったから」
ユーリとフレンがお互いにかけがえのない存在であるということは、傍目から見てもよくわかった。
時折些細な口喧嘩、また本気にしか見えないような剣を交えることすらあるけれど、それはそれで仲の良い証拠なのよと言ったのは
誰だったか。
確かにそんなことをした後にお互い気にした様子もなくケロリとして笑いあってるのを見て、これは二人の意思の伝え方なのだな
と納得したのだ。
傍で見ていて、羨ましいとすら思ったこともある。
ユーリ個人、そしてフレン個人も勿論剣の腕は腕は一流だけれど、2人揃うと本当に敵などいなんじゃないかと思うのだ。
それは何より、2人こそがそう信じているからだろう。
ユーリの後ろにはフレンが、フレンの後ろにはユーリが。
背中合わせに立つ自分の分身、それがいれば自分達にできないことはない、と。
旅の途中、世界を左右するような鍵を握っているというのに、ユーリは楽しそうですらあった。
すれ違っていたフレンと和解してからは、特に。
だからこそ、そんなユーリがいたから自分達も不安や恐怖はあれど目を背けることなく挑めたのだ。
ユーリは強いのだと、そう思う。
世界の危機すらなんとかなってしまうのではないかと、そう皆に思わせるぐらいに。
けれど、だからこそカロルは、そんなユーリを見て少し悲しくなるのだ。
「僕まだまだ子供で、レイヴンやジュディスみたいにユーリが辛い時も全然気づけなくて…寄りかかってばかりかも知れない。
でも、僕だってユーリの仲間だよ!……一人ぼっちだった僕に、家族みたいな暖かさを教えてくれたのは、ユーリだ」
「カロル……」
「だから、ユーリが辛そうにしてるのを見るのは嫌だよ」
ユーリはいつだって、自分のことを後廻しにする。
誰かを守る為に自分が盾になることすら厭わない。
だけど、頼って欲しい。
例えそれが自分でなくてもいい。レイヴンでもジュディスでも、フレンでもよかった。
静かに一人で影の中に入っていこうとするユーリを、引き留めてくれるなら誰でも。
「……サンキュな、カロル」
「ユーリ……」
「ちょっと、卑屈になってたのかも知れない。…俺はもう、フレンの隣には立てないから」
「ッ!!なんで……ッ!?」
ユーリの口から出た言葉が信じられなくて、カロルは首を振った。
だけど同時に、そんなことないなんて台詞はユーリには届かないんだということにも、気づいてしまった。
ダメだ。自分の口から出た言葉ではユーリの心は動かせない。
それはカロル自身にはどうにもできないことだった。
「決めて、選んだはずなのによ」
この手で人を手にかけることを選んだ時に、フレンとの決別も覚悟したはずだった。
あの瞬間に自分とフレンの道は完全に分たれた。
人殺しである自分が、彼の隣に立つことなど許されるはずがない。
覚悟した、はずだったのに。
「今更―――寂しいなんて、な」
いつだって一緒だった。
まだ両手ですらまともに振れなかった剣を握り、共に世界を変えると約束した瞬間は今ではもう大分遠いものになってしまけれど。
今もまだ鮮やかに残っている、小さな子供のただ輝くだけだった夢。
その夢の片鱗が徐々に輪郭を現し、ほんの先端とはいえ確かにそれを掴んだのは、フレンだ。
引き換えユーリに残ったのは、守れなかった約束と、置いていかれるような寂しさ。
それでも後悔はしていないのだ。
何度やり直したとしても、自分は今と同じ道を辿るだろう。
「らしくねえよな。ごめんなカロル」
「ううん。ユーリは悪くない。ユーリは、悪くないよ……」
「……サンキュ」
わしわしと頭を撫でられ、カロルは零れおちそうな涙を必死に耐えた。
この手は命を奪った手だ。
そして、幾つもの命を救った手だ。
「終わった野菜中持って行くわ。カロル先生はここで続き頼むな」
さっき一瞬だけユーリの瞳に走った痛みは、もう今はすっかり成りを潜めていた。
また隠れただけなのだとわかっていても自分にはどうすることもできないのだ。
調理場へ続く勝手口の戸が閉まるのを見て、カロルははぁと溜息を吐く。
「何辛気臭い顔してんのよガキんちょ」
「へ!?リ、リタ?」
突如落ちてきた声に、カロルはバッと顔をあげた。
見ると丁度今カロルがいる場所の真上の窓から、リタがにゅっと上半身を出している。
「そこ、ユーリの部屋?」
「そーよ。ったく、あんたの声がでかすぎてちっとも集中できないじゃないのよ」
「え、聞いてたの?」
「聞こえたの、全く。……ホント、あいつもどこまでも大バカよね」
一人で抱え込むなって言ったのに、と顔を顰めるリタもきっとカロルと同じ心境なのだろう。
「…どうしたらいいと思う?」
「こればっかりはどうしようもないでしょ。あのバカのバカが治らない限りは無理ね」
リタの辛辣な言葉に、カロルは苦笑した。
決して短くない時間を一緒に過ごしていたおかげで、リタが苛立ちを撒き散らす時は大半が心配からだということはわかっている。
自分達の思いがユーリに届いていないとは思わない。
ただユーリの意思がそれでも揺らがないだけだ。
だから、自分達ではどうにもできない。
「僕、ユーリには笑ってて貰いたいんだ」
「……そうね」
静かなリタの肯定にさっき我慢した涙が再び込み上げそうになって、カロルは慌ててごしごしと目をこすった。
************
「なーにしてんの青年」
先ほど皮を剥いた野菜を包丁で切っていると、背後から声をかけられた。
くるりと振り向くと、少し顔を赤らめたレイヴンがニタニタ笑っている。
「おーできあがってんなおっさん」
「ちょっとなめてもらっちゃ困るわ!おっさんにとっちゃこんなのまだまだ序ノ口よー?」
「はいはい。ほどほどにしとけよ」
「で、青年はここでもお手伝いってわけ?」
「まぁな。酔っ払い相手にするよかこっちのが楽だし」
そう言って次々と野菜を切っていくユーリに、レイヴンはさっきのカロルと同じ感想を抱いた。
さすがに調理場に入って作業するには髪の毛が邪魔なのか、いつもはおろしている髪が頭の上で適当に束ねられている。
そう言えば料理する時のユーリはいつも髪の毛をこうやって結っていた。
もしかしてそれもここの名残なのだろうかと思いつつ、レイヴンは作業しているユーリの隣まで歩いて行くと、壁に凭れかかった。
目の前の勝手口をじっと見つめながら、口を開く。
「明日の式典お声かかってるんでしょ。……行かないつもりなの?」
ちらりと横眼でユーリを窺うと、ユーリは特にどうするでもなくただ淡々と野菜を切っていた。
こちらの要件はどうやら予想済みだったらしい。
こっちへ来る前に流された笑みの理由は、しっかりとユーリに伝わっていたようだ。
だからと言って何が変わるわけでもないけれど。
「フレン君はきっとお前さんのこと待ってるよ。ユーリが離れていくのを、あっちは望んでない」
「……かもな」
返ってきた言葉は、意外な肯定と妙に静かな声だった。
いや、意外ではないか。
予想していたのとは違ったが、ユーリの口から出た言葉の方が予想していたものよりもしっくり感じたのだ。
まだまだこの青年のことをわかってあげられない自分が少し悔しくて、レイヴンは溜息をついた。
「それでも青年は、フレン君から離れる気?」
「……」
無言は、肯定だ。
「ま、お前さんはそう言う奴よね」
「……おっさんのそういうとこ割りと好きだぜ」
「そりゃどうも」
レイヴンだってわかっていた。
自分がどう言おうとユーリの気が変わらないことなど。
それでもやはり何も言わないでいるなんてできなくて、こうして言葉をかけてみてはやはり無理なのだと思い知らされる。
だがそんな言葉だって無駄というわけではない。
「……お前らは優しすぎるな」
「あら~?それをお前さんが言うかねぇ」
少しくしゃりと歪んだ笑顔に、自分達の気持ちは確かに伝わっているのだと感じれるから。
(フレン君。あんたも言葉で伝えなきゃ、ユーリは動かないわよ)
今ユーリの心を動かせるとしたらフレンの言葉なのだと、ユーリ自身も気づいているのだろう。
だから式典に出席することを拒んだ。
それはユーリがフレンの傍にいる気がないという明確な意思表示だ。
ユーリのことだ。もう二度と会わないぐらいは考えているのかも知れない。
でも、ユーリの中で発されているもう一つの声も、自分達には聞こえていた。
レイヴンは壁から背を離すと勝手口の扉を開く。
自分を見て目を瞬いたカロルに軽く手をあげて扉を閉めると、上を見上げた。
鋭い目線でギッと睨まれるが、眉間に寄った皺とキュッと引き結ばれた口はどことなく痛そうで。
『自分達』には聞こえているのにね、と少し目元が赤くなっているカロルの頭を撫でた。
―――『傍にいたい』
その一言を、あの人の言葉で聞きたいのだ。
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