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*くろちゃんねる要素あり
その舗装された道は暫くは平坦に続いた。
途中途中にある細い分かれ道は、ほとんどが多少の差はあれ下り坂になっていたので、もしかしたらここら辺が昔は山の
頂上だったのかも知れないと思う。
ならばこの道も途中で下り坂になるかも知れないなと考えていると、思った通り道がなだらかに傾斜し始めた。
現在位置が分からないながらも地図を開き、時々立ち止まっては何か目印になるものはないかと辺りを見回す。
けれどどうやら周りは民家ばかりのようで地図に載っているような店や施設などは見当たらなかった。
「……静かですね」
これだけの民家があるのだ。平日の昼間だとしても、多少のざわつきがあったっていいはずなのに。
途中何件かの家のインターホンを鳴らしてみたものの、どの家からも返事が返ってくることはなかった。
異様な静けさに、気味の悪いモノを感じずにはいられない。
何か冷たいものが背中を這うような得体の知れない恐怖を感じながら、少年―――黒子はただ兎に角自分がどこにいるのか
把握することだけを考えるようにしていた。
なだらかだった坂道が傾斜を増した。
下へ下へと降りていくほどに、木々が減り開かれた土地になっていく。
そのことに黒子は多少安堵した。やはり木々が生い茂った薄暗い中歩いているよりは、舗装された開けた道の方が安心する。
まぁ訳の分からない場所という以上どちらも不気味なことに変わりはないのだが。
やがて坂を下りきると、十字路に出た。
左方向にはまた下り坂が続き、右方向には平坦な道が続いている。
「あっ」
右方向、黒子から見て正確には右斜め前の住宅の壁に、"磯辺鐡工株式会社"という文字が書かれているのを見つけた。
黒子は広げていた地図に目を落とすと、どこかにこの会社の名前が書かれていないかと地図を指でなぞる。
「磯辺鐡工……、磯辺……鐡工……」
しかしその名前は地図上のどこにも書かれてはいなかった。
少々気落ちしながらも、また壁に書かれたその社名に目を向ける。
と、黒子はその社名の前に"←"と書かれていることに気付いた。
角度からするにこの矢印は、黒子から見て十字路の左でも右でもなく、正面を指しているようだった。
正面と言っても、今さっき下って来た道から見れば多少右にずれた所からそれは伸びていた。
だがそこには工事現場で見るような赤いコーンが二つ並んでおり、それに橋渡しされている黄色と黒の縞模様の棒きれには
"現在工事中"と書かれた紙が張り付けられていて、どうやら通行止めになっているようだと知る。
コーンの前まで足を進めた黒子は一体どの辺を工事しているんだろうと思いながら、まぁ知らない土地で入るなと書かれている
所にはいかないに越したことはないと踵を返した。
さて他には何かないかと目をやった所で、丁度その目の前が店屋であったことに気付いた。
「"大崎屋商店"。何か……懐かしい所ですね」
まるでテレビで時々みるような、田舎の駄菓子屋のような佇まいだ。
日曜日の夜にやっているアニメで、赤いスカートを履いた女の子がよくこういう店に行っていたような気がする。
いやそういうのはさておき、ここが地図に載っているかどうかだ。黒子は再び地図に目を走らせた。
大崎……大崎……と呟きながら地図をなぞっていた指が、ある一点のところで止まった。
「あった、ここだ」
ようやっと現在地が把握出来たと、黒子は一先ずホッと息を吐く。
「これでお店が開いててくれれば、嬉しかったんですが……」
黒子はそう言いながら目の前の店を見た。
そこはシャッターが閉まっていて、中で開店作業をしている様子も見られない。
「仕方ないです。他に人がいそうなところを探しましょう」
黒子は自分に言い聞かせるようにそう言うと、近くに何かないかと再び地図を見る。
目の前に道を挟んでお店があるということは……このお店が上の方向に来るように、と地図を回す。
「これが今来た道ですね」
大崎屋が書かれている場所の右側にある、地図上では上へと伸びている道。これがさっき通って来た道だ。
ただ元いた公園がこの地図では一体どこなのかわからない。ただ一番広い道を通って来たのでここから真っ直ぐに行けばあの
公園が見えてくるはずだ。
そしてその道は今自分の前に伸びていて、つまりは左右の視点がさっきと逆になったわけだから、左側が平坦に続く道。右側が
下り坂の道だ。
それから最後が自分の後ろに続く立ち入り禁止の道……のはずだったのだが。
「あれ?書かれてませんね……」
磯辺鐡工株式会社があると思われるその道は、地図上には書かれていなかった。
確かに道が分かれていることを示すようにちょろっと出だしは書かれているのだが、その先は何もない。
なるほど、磯辺鐡工の名前が載ってないはずである。
とりあえず何処か人の集まりそうな場所、と現在地に近いところに載っている名称に目を通していく。
するとすぐ近くに"公民館"があるのがわかった。
「……区、公民館。これなんて書いてあったんでしょうか」
区の前の文字が擦り切れていて読めない。
それさえ読めればここがどこかわかったかも知れないのになと思いながら、黒子はこの公民館に向かうことにした。
公民館は右側の下り坂を下ってすぐだ。
黒子は人がいるかも知れないという期待に少しだけ足早になりながら、その坂道を下った。
ほとんど間もなくして公民館らしきものが見えてきた。
道の先、公民館を少し過ぎた辺りに池か何かあるのか、緑色のフェンスが見える。
黒子は公民館の敷地に近づき、駐車場の入り口からそっと建物の様子を窺った。
駐車場は(と言っても白線などは引かれていないのだが)置こうと思えば10台ほど置けるぐらいのスペースがある。
だが今は一台の車も止まってはおらず、建物の中からも人の気配がしない。
「やっぱり誰もいないんでしょうか……」
とりあえず中に入ってみようと、黒子が駐車場の入り口へ一歩足を進めた。―――その時だった。
"そいつ"は、公民館の隣に併設されてある、小さな公園のような所に居たらしかった。
居た"らしかった"というのは、黒子がその瞬間をよく覚えていないからだ。
ただ確実に言えることは、そいつは間違いなく人間ではなかったこと。
だが、ではなんなのだと言われても黒子には答えることが出来ない。
言えるのは、そいつを目にした瞬間心臓が思い切り跳ねあがり、鳥肌が体中に総毛立ちしたことぐらいか。
そいつは黒子と目が合うと、大きな黒い目を細めて、にやりと笑ったようだった。
両頬の半ば辺りまで裂けた口が薄らと開く。その中に並んでるのが人間のような歯だというのが逆に恐ろしく見えた。
というのは全て後に冷静になってから思い返して把握した状況なわけで、現実には黒子はそいつを見てすぐさま悲鳴を上げ
公民館から飛び出た。
それというのもあいつは黒子と目を合わした瞬間、一も二もなくこちらに向かって走って来たからだ。
「うあ、あああああああああああっ!!!!!」
黒子はその瞬間そう悲鳴を上げながら一目散に駆けだした。
踵を返しそのまま右方向に全力で逃げる。
下り坂はまだ続いていたらしく、黒子はそれをまるで転がるように駆け下りた。
「ギギアァァ……ッ!!イイィィヒヒヒヒヒヒッ!!!!ガァア゛……っ!!」
後ろからあの化け物の声のようなものが聞こえる。
どうやら追ってきているらしいということはわかったが、黒子には振り返る勇気も余裕もなかった。
(なんだアレ……っ!なんだアレなんだアレなんだアレ、なんだアレ……っ!!!!)
黒子は頭の中でただそれだけを繰り返した。
余りの恐怖に口が戦慄き、傍から見るとまるで笑みを浮かべているようにすら見えるかも知れない。
坂を下ると、その先は十字路、いやこの形状はどちらかというと"X"に近いだろうか。
黒子としてはこのまま真っ直ぐか、もしくは少し右にカーブしている道に進みたかったが、そのどちらも先ほどの鐡工会社に
続く道のように立ち入り禁止になっていた。
仕方なく速度を落とさないまま、大きくカーブしながら左方向へと曲がる。
化け物の咆哮はまだ後ろから聞こえてくる。
今の道が下り坂であることにこれ以上のない感謝を覚えながら、黒子はそのまま道なりにがむしゃらに走った。
やがて化け物の声が聞こえなくなっても、黒子は足を止めなかった。止められなかった。
もし足を止めて振り返った時、あいつが後ろにいてあの黒い目がにやりと笑ったら……。そう思うと怖くて怖くて、ただ
ひたすらに走ることしか出来なかった。
耳にあいつの声がこびりついているように離れない。何度もリフレインするその声は不協和音そのもので、まるで地獄の底から
聞こえてくるような低いものだった。
それを振り切るかのように頭を振りながら走り続ける。泣いている余裕すら今の黒子にはなかった。
だがスポーツをやっているからと言ってお世辞にも体力があるわけではない黒子の限界は、やはりそう長くはなかった。
徐々にスピードが落ち、息が上がりゼィゼィと咽から嫌な音が漏れ出る。
それでも止まることは出来なくてなんとか走り続けていると、ふと何か声が聞こえたような気がした。
「またあいつが……っ!?」とただでさえ酷使している心臓が大きく跳ねあがったが、良く聞いてみればそれは人の声で。
呼ばれているらしいのはわかった。でも誰に、と耳を澄ませてみた時だ。
「黒子っ!?待て!!待てって、おい黒子!!!!」
聞き覚えのある声だった。
はっきりと自分の名を呼ぶその声に、人ごみの中でも目立つオレンジのジャージが脳裏に浮かんだ。
思わず足を止めて振り返れば、必死にこちらに駆けてくる人の姿。
向こうはそのまま勢いを緩めることなく自分の傍まで向かって来ると、そのままガシッと肩を掴まれた。
少しだけビクリと体が強張るが、それよりもどうして君が、なんで、という疑問符が頭の中に乱立する。
「黒子……なんだな……!?」
そうだと、頷くことも出来なかった。
ただ自分以外の誰かがこの世界にもいたという安心感で。一人じゃないという心強さで。
「高、尾……君?」
「そう、俺!たっかお君でっす!!」
高尾が満面の笑みでそうおどけた瞬間、黒子は高尾に縋りついてわんわんと声を上げて泣きだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
213.黒
鷹君に会えたおかげでちょっと落ち着きました。
でも、またアレに会うかも知れないと思うと……。
とりあえず早くここから出たいです。
214.別世界のななし
マジかよ……。
215.別世界のななし
リアル青鬼じゃねぇか……。
216.別世界のななし
よく無事だったな黒、良かった。
217.別世界のななし
追いかけられるのって怖ぇよな。
夜道で後ろから違う足音しただけでもビクッとする俺だったら間違いなく心臓発作で捕まる前に死んでるわ。
218.別世界のななし
>>217 それは何気に幸せなことかも知れない。
219.別世界のななし
おおおい不吉なこと言うなし!!
220.別世界のななし
そうだそうだ!!黒と鷹は生きてゲームの世界から出るんだからな!!
221.黒
>>220 え、ゲームの世界って何の話ですか?
222.別世界のななし
あれ?もしかして黒まだスレ読んでない?
実は鷹が今二人がいる世界に入る前に、黒が言ってたゲームをやってたんだよ。
で、やってる途中で意識がなくなって、気がついたらそこに居たらしい。
223.別世界のななし
ゲームが見つからないってことでもしやって思ってたスレ民もいたんだがな。
鷹の参入で、原因はほぼ間違いなくそれだろうと。
224.鷹
そゆことwww
まぁなんでなのかってのはまだ何にもわかってねぇんだけどな。
225.別世界のななし
ゲームってとこがネックなんだよな……。
神隠しとか別空間とかならまだ幾つか例はあるんだけど。
226.別世界のななし
二次元の世界に行っちまったなんて俺も初めて聞いたしな。
227.別世界のななし
>>226 なんかその書き方ちょっと羨ましくなるからやめてwwww
228.別世界のななし
>>226 二次元とかwwww行きたいwwww
229.別世界のななし
>>226 嫁を求めて!!この画面の向こうへ!!ΞΞΞフ´◔‿ゝ◔`)フ ロケットずつきwwwwwww
230.鷹
>>227~229 だがホラーゲームの世界である。
[畑と田んぼとお地蔵様の写真.jpg]
231.別世界のななし
ごめん!!ごめんな鷹!!羨ましいとか言ってごめん!!
だからそういう雰囲気のある写真やめてええええええ!!!!
232.別世界のななし
いやああああごめんんんん!!
でも空が青いからなんか長閑にも見える不思議www
233.別世界のななし
いや実際長閑な風景だよなwww
変な奴にさえ追いかけられなければ。
234.黒
ちょっとスレ遡ってきました。
なるほど、じゃあここはゲームの中の可能性が高いというわけですか。
では残念ですが、次の行き先はきっとあそこなんでしょうね……。
235.別世界のななし
え、あそこって黒ヒントかなんか見つけてたのか?
236.別世界のななし
変なのに追われながらか?すげぇな黒。
237.別世界のななし
>>235、236 これだからトーシロは……ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ
238.別世界のななし
>>237 顔文字うぜぇwwwww
239.別世界のななし
え、何?どういうこと?
240.別世界のななし
結構ホラー系やったことない奴とか多いのかな。
こういうゲームの定番で言えば、次の行き先は公民館、だろ?
241.鷹
>>240 大正解!!正解した貴方にプレゼント!つ[お汁粉]
てかもうそこ目指して歩いてんだけどなwww
黒超嫌がってるwww俺も出来れば行きたくないおwww
こういうゲームでのフラグだな。変な奴が出た所を探れ、ってやつ。
242.別世界のななし
お汁粉wwwいらねwww
243.別世界のななし
なんか変な奴って呼びにくいなwww誰かあだ名つけろよwww
244.黒
>>243 じゃあ関口君で。
245.別世界のななし
関口君wwwwwなんでwwww
246.別世界のななし
君付けなのwwwwなんかフレンドリーだねwwww
247.別世界のななし
ちょwwwwリアル関口な俺涙目wwwww
248.別世界のななし
>>247 どんまいwwww
249.別世界のななし
黒のセンス謎すぐるwwww
250.別世界のななし
>>247 やべぇ関口仲間がいたwwww
251.別世界のななし
>>247、250 ケコ━━━━(・∀・)人(・∀・)━━━━ン
252.別世界のななし
>>247、250 リアル同じ名字wwww
253.鷹
>>247、250 お(・∀・)め(・∀・)で(・∀・)と(・∀・)う!祝杯!つ[お汁粉]
まぁ関口君が出てこないことを祈るぜwww
254.別世界のななし
だからなんでおしるこwwww
255.別世界のななし
祝杯おしるこて聞いたことないわwwww
256.別世界のななし
てかマジ気をつけろよ。
後出来れば実況よろ!
257.黒
実況は出来るだけしていくつもりですが、途中でいなくなったら恐らく関口君に捕まってアッ-----!!/(^o^)\ってなってると思って下さい。
258.別世界のななし
ちょwwww黒wwww
259.別世界のななし
あかんwwwwそのアッ-----!!/(^o^)\あかんでwwww
260.別世界のななし
マジ食いされるだろ!もうそういうブラックジョークダメ!!
261.別世界のななし
ハッ!!Σ(〃゚A゚)黒が繰ろ(り)だすブラックジョーク!!キタコレ!!
262.別世界のななし
>>261 ま、こういうのは放っといて。
263.別世界のななし
>>261 別にそういうのいいんで。
264.別世界のななし
>>261 はいはい次行こ次ー。
265.261
(;´;3;)σ○"ィィモン...
慣れてるもん…。
266.別世界のななし
>>265 wwwwwww
267.別世界のななし
>>265 大丈夫、俺は面白かったと思うぜ。これで涙拭え。つ[ネタ帳の破片]
268.別世界のななし
>>267が地味に酷いwwwwww
269.別世界のななし
>>267 そのネタ帳>>261のだろwwwww
270.261
俺のネタ帳(vol15)ーーーーっ!!!!!(((( ;゚Д゚)))
271.別世界のななし
>>270 多い多いwwwwww
272.別世界のななし
>>270 vol15wwwwww
273.別世界のななし
てか黒と鷹は?いる?
274.鷹
いるぜーwwww
お前らなんか楽しそうにやってんなぁと思って見てたwwww
275.黒
次関口君とエンカウントしたら何がなんでも写メを撮ってこのスレ民を阿鼻叫喚の渦へと巻き込んでみせます。
276.別世界のななし
黒wwwwww
277.別世界のななし
余裕かwwwww
278.別世界のななし
ううん黒、逃げることだけを最優先に考えて。
写真とかいいから。大丈夫だから。マジ間に合ってる!全然平気だよ!!
279.別世界のななし
>>278 そこまで必死にならんでもwwwww
俺は見てみたいけど…でも黒と鷹は関口君から逃げるの最優先な!
280.鷹
黒がえらい張り切ってんだけどwwww
てか関口君ウケるwwwww関口てwwwwww
後もうちょいで公民館着くっぽい!
あ、それからこのマップの一部写メっとくな!俺らこの"宮崎米穀店"の近くなう(* ´皿`)
[地図の一部.jpg]
281.別世界のななし
とうとう関口君の出現場所か……。
282.別世界のななし
気をつけろよー!(´゚д゚`)
・
・
・
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警戒はしていたはずだった。
なのにそうなってしまったのは、自分の一瞬の不注意が招いた結果。
赤い何かが、その少年へと手を伸ばした。
体に不釣り合いなその大きな手が少年の頭を掴む。
ミシリ……と嫌な音がした。
大きく裂けた口が、ぐわりと開かれたのを見たのが最後で。
必死で叫ぶ声も、伸ばした手も届かず、ただ自分は引きずられるようにしてその場から―――。
「……ぅわああぁぁっ!!!!」
ガバッ……!と勢いよく跳ね起きた少年は、暫くその場で何処か一点をただ茫然と凝視していた。
荒い呼吸が暗い室内に響く。
ブランケット一枚で窓を開けて寝ていたとは言え、季節は夏真っ盛りの八月。暑くはあっても寒くはないはずなのに、少年は
ブルリと身震いした。
そのおかげか、漸く少年の目が今の状況を確認するようにそろそろと動く。
「……夢?」
少年はポツリと呟くと、途端にハアァと大きな息を吐いて全身から力を抜いた。
そのまままたゴロンとベッドに寝転がり、両の手で顔を覆う。
酷く……恐ろしい夢を見た。
何かに襲われる夢。それは夢のはずなのに何故か今まで実際に見ていたようにリアルで。
いや、その言い方は少し違うかも知れない。
どんな奴にどんな所で襲われたのか、その細部までを明確に思い出せるようなものではなかった。
ただ、痛いくらいに竦みあがった心臓の鼓動を。
恐怖に縺れる足を。上がって行く自分の呼吸を。震える指先を。戦慄く唇を。
全身で感じる恐ろしさを、少年は今でも鮮明に思い出せた。
少年は未だドクドクと音を立てる心臓に手をあて、フゥと息を吐く。
「大丈夫……夢……ただの、夢だ……」
そうゆっくりと呟くことで今の出来事が夢であることを自分に言い聞かせ、「大丈夫、大丈夫」と繰り返す。
けれど全力疾走で走っていた鼓動は中々収まってくれず、少年は仕方なくもう一度体を起こした。
これは暫く眠りにはつけそうにない。
とりあえず部屋の明かりをつけると、少年は自分の携帯に手を伸ばした。
時間を見てみると、まだ11時半にもなっていない。
「1時間も寝てないじゃん……」
最悪……、と前髪を掻き上げながら少年はハァとため息を吐いた。
「明日って日曜だから部活は、えっと……午後からか。良かったー」
午後からならもし最悪明け方まで寝付けなかったとしても寝坊の心配はないだろう。
それだけが幸いだと思いながら、少年は携帯を弄って電話帳を開いた。
こんな時は誰かと話をして気を紛らわすのが一番である。
「誰なら起きてるかなぁ、っと」
頭の中に話を聞いてくれそうな友人を思い浮かべる。
冷たくあしらわれることも確かに多いが、なんだかんだで結局は話を聞いてくれる優しい友人達だ。
けれど流石に寝ている所を起こすのは忍びなく、この時間でも起きていそうな友人の電話番号を呼び出した。
そう言えば寝る前にも誰かと話したくて3人ほどに電話を掛けたな、と思い出す。
最初の2人は電話に出ず、3人目で漸く話し相手が捕まったと思ったのも束の間。
口はすこぶる悪いけれど意外と面倒見がいいのかいつもは自分が満足するまで付き合ってくれるその人に、今日はやけに
一方的に通話を切られた。
怒らしたわけではない。怒っていたわけでもないと思う。
でも「用を思い出した」と言う彼の口調は、何処となく固くて―――。
「あれ?」
耳に当てた通話口から、ツーツーと通話中の音が流れてきた。
無機質な音を流し続けるその携帯から耳を離し、しばしそれに目を落とす。
寝る前……10時くらいだったろうか?に、電話を掛けた1人目が実はこの友人なのだが。
その時も電話に気付いてないらしいとかそういうのではなく、こんな風に通話中だったのである。
いつもなら珍しいなと、そう思うぐらいのそれが……今回ばかりはやけに気になった。
少年は通話を切るとすぐに別の友人に連絡を入れる。
「通話中……」
この友人が、寝る前に連絡が取れなかった2人目の友人。
今回も先ほども繋がらなかった理由は、前の友人同様通話中だからだというものだ。
偶然だろうか―――それとも……。
後もう1人、繋がったものの不自然に会話を終わらせた友人の名を開く。
何故か小さく震える指を深く息を吐くことで落ち着かせながら、通話ボタンを押した。
『ツー…ツー…ツー…』
「っ!?なんで……っ!!」
3人中、3人が通話中。
偶然かも知れない。いや普通に考えれば偶然以外の何物でもないだろう。
けれど少年には、その3人の身に何かが起こっているような気がしてならなかった。
「……っ!!」
ブルリと体を大きく震わせ、他に、他に誰か連絡を取れる人はいないかと探す。
電話帳の十字キーの下ボタンを数度カタカタと押すと、ふとある人物が目に留まった。
「そう言えば、珍しく電話かかってきたんだっけ」
少年が自分から電話を掛けた友人は、確かに3人だ。
だがもう1人珍しい友人から連絡を貰っていたことを少年は思い出した。
それは自分が3人目の友人に電話を入れる少し前だったはずだ。
着信履歴を呼び出すと、その名前は一番上に表示されていた。
一つボタンを押して、携帯を耳に当てる。
聞こえてきたのは、無機質な通話音だけだった。
「……どうして」
茫然と呟く。
心臓が痛いくらいに鼓動を速めていた。
どうしたら……どうしたら、いいのだろうか。この言い様のない不安は、どうすれば収まってくれるのだろうか。
少年はブランケットをぎゅっと握りしめると、考えるように目を閉じた。
他に誰か連絡を取れる人はいないか。出来れば、あの4人と関係を持つ人物がいい。
答えは、すぐに出た。
だがこの時間、彼が起きていることはまずない。それは短くない付き合いの上で重々承知していた。自分の考えが杞憂ならば
彼の逆鱗に触れるだけだ。
けれどその逆鱗に触れたとしても、バカと怒鳴られようと、その声で「あいつらなら大丈夫だ」と言って欲しかった。
少年は電話帳から彼の名前を呼び出して、祈るように繰り返し呟く。
「繋がれ……繋がれ……っ」
後数十分で、今日という日が終わろうとしていた。
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